秋服から元カレの匂いがして眠れなくなった。

急に寒くなってきた。

僕は風邪ひきやすいから、早めに衣替えをしようと思った。

 

で、去年よく着ていたパーカーを出したんだけど、手が止まった。

懐かしい車の匂い。

去年付き合っていた恋人の匂いが、グレーのパーカーに染み付いていた。

 

一瞬で、いろいろな思い出がフラッシュバックした。

 

 

紙の日記の方には書きまくったんだけど、いま恋人と距離ができている。

というか、一方的に僕が冷めた。のかもしれない。

 

 

さっきラジオでステキな文章が聞こえた。

「付き合い始めた時から、別れへのカウントダウンが始まっていたような恋」。

 

たしかそれは不倫の恋愛の話だったんだけど、僕にはぐっときた。

 

ひょっとしたら、僕らの恋愛もそうだったのかもれない。

 

 

きっと、彼は僕のことを好きじゃない。

 

向こうからデートに誘われたことが無い。

希望を聞いても「なんでもいいよ」。

 

いつも心のなかでガクッとうなだれる。

ああ、やっぱり好きじゃないんだなーってわかってしまう。

 

けど、耐える。

 

思えば付き合う前からそうだった。

3つ年上の彼に、いつもペースを合わせようとしてきた。

彼はすごく魅力的に思えた。一方で僕は自分への自信がない。

だから付き合えないと思ってた。

 

でも、彼とは相性が合った。

つまり、一緒にいて楽しい。かつ、苦痛じゃない。

だから、「付き合えるかどうかは関係ない。めいいっぱい楽しめればいいや」と思ってた。

 

そしたら、いつの間にか付き合ってた。

彼から「付き合っちゃおうか」って言われて、めちゃくちゃ嬉しいくせに「うん、そだね」ってそっけなく答えたのを覚えてる。

 

いままで年上と付き合ってきたから、同年代のパートナーは彼が初めて。

 

去年ゲイの友達グループを作ろうとしたんだけど、彼とはその中で知り合った。それから二人で抜け駆けみたいに遊んで、デートになってキスをした。

そういう順序を踏んだ付き合いは初めてで、すごく楽しかった。「友達以上」から「恋人」に昇格するあの興奮って言ったらない。

 

まるで遅れてきた青春をいまさら味わっている気分。

 

けど、それから季節がめぐってあんまり距離が縮まっていないことに気づいた。

恋人にはなったけど、中身は友達のまま。って感じがする。

 

ここらへんはゲイ特有の事情もあるかも。

なぜなら男女の場合、幸か不幸か未来のレールが見える。

結婚とか、マイホームとか、子育てとか。

 

僕らにはそれがない。

同性婚LGBTシェアハウス、養子縁組。ぜんぶ遠い世界の出来事に聞こえる。

 

だから、宙に浮くイメージ。

これからどうなるんだろうって。

1人のゲイとして、ただでさえこの国で「老いのイメージ」が持てないのに、どうしろっていうんだろう。

 

彼はどうするつもりなんだろう。と考えた時、なんも考えてないんだろうなと思い至る。

でも、それは彼に限った話じゃないけど。

 

僕には同世代のゲイがどこか他人事のように将来を考えているように見える。

別にみんながみんな社会運動をしろってことじゃなくてさ。

 

そんなわけで、今まで付き合った人とはいつか冷めるときがきた。

 

そして今回も。

それに輪をかけて、彼のお気楽なところがいつも心に引っかかってしまう。

 

だから、相性はいいけど価値観は合わない。というのがしっくりくる。

根本のところで交じり合うことができない。

 

 

彼は浮気するタイプじゃない。

だから、僕の方から何も言わなければ付き合い続けるんだと思う。

もっと正確に言うと、別れない状態が続くと思う。

 

   

苦しい。こんな時間に何やってるんだろ。

こんなもどかしい気持ちを一番伝えるべき相手は、海外に旅行に行ってる。

 

いまさら眠くなってきた。