【読書】2020年に本好きのゲイが読んで面白かった10冊

どうも、chuck です。

毎年恒例、読書家のゲイである僕が、今年読んで面白かった本を紹介していきます。(※発行年が2020年ではないものも含みます) 

 

1. コロナ後の世界 - ジャレド・ダイアモンド、ほか

コロナ禍という切り口で、6人の知識人が持論を展開します。 

「ライフ・シフト」のリンダ・グラットン 「銃・病原菌・鉄」のジャレド・ダイアモンド 「the four GAFA」のスコット・ギャロウェイ そして経済学者のポール・クルーグマンなど。なんともすごい面子。

 

これからの世界情勢、AIと人工知能、働き方、GAFAの行く末、経済動向など…。たいへん知的好奇心をくすぐるラインナップでした。

すべてのパートは20〜30ページほど。さらっと読めてしまいます。しかし確実にエッセンスが詰まっているのは、さすがその道のエキスパートと言ったところ。

 

もし気になったパートがあれば、彼らの著作を読んで深堀りするのも良いかもしれない。そういう意味では、パンフレット的な1冊でもありました。

無粋な言い方だけど、非常にコスパが良い一冊。幅広い読者におすすめです。 

 

2. 下流の宴 - 林真理子

恥ずかしながら、林真理子を初めて読みました。

 

まず、勧善懲悪ストーリーとして没入できます。それからサクセスストーリーとして読めるし、フェミニズム文学的である。そして貧困を描いてみせ、ある種のメッセージを含む。文句なしの傑作でした。

 

それから、細かいサブストーリー的なものが多いのも個人的には好みの作風。中国人バイトのタマちゃん、ゲイの水谷、図書館で出会った老人。登場人物は多く、それぞれの人生を魅せてくれる。

 

自分の好きな作家だと予測はしていた。けれどまさかここまでとは…。初めて読む作品が「下流の宴」で良かった。 

読書初心者に自信を持っておすすめできる一冊。 

 

3. オタク経済圏創世記 - 中山淳雄

日本のポップカルチャーがたどってきた歴史が述べられます。 

ポップなサブカル本かと思いきや、内容はとても体系的。アニメ・ゲーム・プロレス(?!)がたどってきた歴史を解説し、その可能性と海外への展開について語れられます。

 

筆者の中山淳雄さんは現在、ブシロードの幹部。海外展開のためにカナダに赴任もしていたらしく。なるほど。知識と経験を兼ね備えた語り口には納得感があります。 

日本発のポップカルチャーのパワーを再認識できる一冊です。 

 

4. 総理の影: 菅義偉の正体 - 森功

2020年秋に暫定総理大臣となった菅義偉。その人物について扱う本です。ただし、本書が扱うのは菅義偉本人だけではなく、その辺縁まで話が及びます。

 

例えば、満洲について。菅の父親は満州鉄道の敷設に携わっていた。そして「命からがら」秋田に返ってきた。という過去を持つ。そのように、菅本人のエピソードではないものの、周辺の話が適宜挟み込まれます。

 

その他には、横浜港湾事業、大阪府政、NHK への政治介入、沖縄基地問題、カジノ構想など。菅義偉が関わってきた分野について、かなり詳細に書かれます。なるほど、この出来事の裏にはそのような利権や政局があったのかと。非常に面白く読みました。

 

総括として良書でした。「総理の影」と言う陰謀論めいたタイトルとは裏腹に、インタビューや調査に根ざした非常に具体的な1冊。菅義偉本人がたどってきた道のりがよく分かるのはもちろんのこと、政財的な各分野について新しい学びを得た想いです。 

 

5. 悪人 - 吉田修一

言わずとしれた小説家・吉田修一。彼の小説を読むのは3,4冊目でしょうか。

 

正直、救いのない話です。人間が静かに業を背負う様を描く。それはまるで宗教小説のような、遠藤周作や三浦綾子の作品を彷彿とさせました。

 

前半のミステリーライクな作風とは裏腹に、後半では登場人物の内情が直球で吐露される。犯人は誰か、なんて表層的なものではなく、その心理や感情にのめり込むこと必至。

 

作中でのこのセリフはとても印象的。

「今の世の中、大切な人がおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、何でもできると思い込む。自分には失うもんがなかっち、それで自分が強うなった気になっとる。失うものもなければ、欲しいものもない。だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思い込んで、失ったり、欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる。そうじゃなかとよ。本当はそれじゃ駄目とよ」

 

なるほど、これが芥川賞・直木賞の選考委員の代表作。少し人物のデフォルメが強すぎる部分はあるものの、強烈な没入感をもって読めました。

夢中になれる読書体験を求める読者におすすめです。 

 

6. 沖縄から貧困がなくならない本当の理由 - 樋口耕太郎

多くの日本人がそうであるように、自分もまた沖縄に対して好印象を持っていました。それは「なんとなく」の好印象で、具体的な知見があったわけではなく、あくまでイメージとしての好印象でした。

 

本書を読むと、沖縄の実像が浮かび上がってきます。「沖縄から貧困がなくならない本当の理由」が、筆者の経験と分析によって書かれます。

人によっては、目を背けたくなるような話かもしれない。事実、本書で書かれる範囲は沖縄に限定されない。日本全体の問題、日本人の心の問題までに話は波及する。本土の人間も、決して無関係ではなく、地続きの問題を抱えていることが分かります。

 

それでも、沖縄にどっぷりと浸かった筆者の分析は面白く読みました。タブーを恐れず、メスを切り込んでいくような文章。終盤ではやや主観的な部分が多いものの、人の在り方まで論じたのは読み物として面白かった。

 

7. 三体Ⅱ 暗黒森林 - 劉慈欣

SF界隈を超えて、本好きの間でも大変話題になった三体。その続編が出版されました。

上下巻を合わせるとかなりのボリューム。

 

深宇宙に旅立った「星艦地球」のパートはあまりにも傑作。まさしく「冷たい方程式」と「幼年期の終わり」。

 

背筋が冷えるような感覚とともに、読者は「暗黒森林」の意味を知ることとなります。この宇宙の真相が解明されていくさまは、さながら壮大なミステリ小説のよう。

 

総括として大変夢中になって読めました。溢れるような情緒を、SF的な大風呂敷に載せてみせた。SF小説として恐ろしく傑作。

 

それにしてもまだ三部作の2部。3部目がいったいどのように展開するのか、全く想像ができないし、あまりにも楽しみです。

 

8. 相模原障害者殺傷事件 - 朝日新聞取材班

本書が取り扱うのは、2016年に相模原市で起きた殺傷事件。書き手は朝日新聞の記者ら。

 

被告は「楽しそうな人生を送れば、事件は起こさなかった」と語った。

自分が障害者施設で働いたら、どのような想いを持つだろうか。被告と似通った思想が誘発されないとも断定できない。それが差別感情、優生思想の恐ろしいところだと思います。

 

社会学者の最首悟さんは「被告が否定したのは人間の、頼り頼られて生きるという性質」と語る。人間の、頼り頼られて生きるという性質。この言葉に出会えて良かった。この言葉こそ、優生思想的な昨今の事件へのアンサーではないでしょうか。

 

また、裁判について新しい洞察も得られた思い。裁判は量刑を定めるのみにあらず。事件の背景に横たわる、社会的な問題を世の中に問うという、そのような意義もあるのだと。改めて認識しました。

 

9. われはロボット - アイザック・アシモフ

人類の辿った未来をロボット工学の進化という視点から描きます。形式は連作短篇集で、翻訳がごくごく自然。読みにくさはなく、さくさく読み進められます。

 

本書の前半は、良質なSF小説として楽しく読めます。ロボットたちはどれも愛くるしくて、登場する人間もまたハートフルで魅力的。読みながら、ロボットと人間への愛が溢れていることに気づきます。

 

しかし後半に進むにつれて、アシモフの突きつけた課題が迫ってきます。ロボットとマシンが優位となる未来において、人間はどうあるべきか。どう向き合っていくべきなのか。

 

ロボット文学の金字塔であり、SF小説の必読本。すべてのSF好きに、自信を持ってオススメできる傑作です。

 

10. 「Gゼロ」後の世界 - イアン・ブレマー

アメリカのパワーが相対的に弱まっていき、主導者なき時代が到来。筆者のイアン・ブレマーは、そのような状態を「Gゼロ」と表現し、その現状と問題点、そして予想される未来について論じます。

 

自分がこの本を手にとったのが、2020年5月。初版の発行年は2012年。しかし、本書の内容の先見性には驚くばかり。

例えば、Gゼロの世界では、感染症が発生しても情報は秘匿され、世界的な流感となってしまうだろうという見立て。

2020年現在、covid-19が世界的に猛威を振るっています。中国の武漢から広がったとされるこの感染症。中国やWHOの初動には、Gゼロ的な欠陥を見いださずにはいられません。

 

さらに米中の軋轢に関しても、この本が2012年の時点でかなり正確な予測を立てています。

 

また、日本がどう見られているのかを再確認することもできる1冊。

 

文量は250ページほど。決して分厚くは無いものの、読了までに1ヶ月かかりました。それほどに多くの情報量を含み、大変学びの多い一冊でした。

まとめ

まとめです。2020年に読んだ本のうち、面白かった10冊を紹介しました。

例年はもっと小説が多かったように思いますが、2020年はその比率が減った印象。自分の読書傾向が変わってきているのかもしれません。

たくさんの良書に出会えたことに感謝しつつ、2021年にたくさんの良書に出会えることのが今から楽しみです。

 

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